役職定年2026-07-07 公開監修:山根一城(株式会社ポテンシャライト)

役職定年後のキャリア — 「格下げ」ではなく「再配置」として捉える

「来年、役職定年なんです。正直、モチベーションが上がりません」

皆さま、この相談を受けたとき、僕はまず「それは自然な感情です」とお伝えします。役職を外れることに前向きな気持ちになれというのは、無理があります。ただ、その先に何が起きるかは、実は本人の動き方次第でかなり変わる、というのがこの記事の主張です。多くの日本企業が55歳前後に役職定年制度を設けており、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査でも、大企業を中心に一定割合の企業が制度を持っていることが確認されています。つまり、これは一部の人だけに起きる特殊な出来事ではなく、多くの会社員がいずれ通る制度上の転機です。

0. 前提 — 役職定年は「評価の終わり」ではない

率直に言うと、役職定年を「会社からの評価が下がった証拠」だと受け止めてしまう方が非常に多いです。気持ちは分かります。役職手当がなくなり、部下がいなくなり、これまで見えていた景色が変わる。ショックを受けるのは当然です。

ただし、誤解がないように申し上げると、役職定年は制度上一律に発動するものであって、あなた個人の評価が下がったわけではありません。同期も、優秀だったあの先輩も、同じタイミングで役職を外れています。ここを混同したまま次のキャリアを考え始めると、必要以上に自信を失った状態で市場に出ることになり、それが実際の評価にも悪影響を及ぼします。

1. 現場で実際に起きている「再配置」の中身

僕が面談で聞いてきた実例をもとにすると、役職定年後のキャリアは大きく3パターンに分かれます。

パターン1:専門職としての再配置。マネジメントから外れ、長年の経験を活かした専門職(エキスパート職・スペシャリスト職)として再配置されるケース。給与は下がることが多いですが、部下のマネジメント負荷がなくなり、得意な実務に集中できるようになったと語る方も少なくありません。

パターン2:後進育成としての再配置。若手・中堅の育成担当やメンター的な役割に回るケース。評価制度上の役職は下がっても、社内での影響力や信頼はむしろ増すことがあります。「役職より、頼られる存在であること」に価値を見出す方に向いています。

パターン3:実質的な放置。残念ながら、これも現実として存在します。特に何の再配置もされず、明確な役割を与えられないまま在籍だけが続くケースです。このパターンに陥った方の多くが、転職や複業を考え始めます。

この3パターンのどこに落ちるかは、会社の制度設計だけでなく、本人が役職定年前後にどう動くかで大きく変わります。

2. 評価が分かれる人の違い — 3つの観察

1つ目、「肩書きへの執着」を早めに手放せるかどうか。役職定年後も部下時代の口調やスタンスを引きずる方は、周囲から扱いにくいと見られがちです。逆に、役職が変わったことを素直に受け止め、新しい立場での振る舞いに切り替えられる方は、周囲からの信頼を積み上げやすい。

2つ目、「教える側」に回れるかどうか。マネジメント経験は、後進育成という形で再活用できます。若手に対して高圧的にならず、対話的に知見を渡せる人は、社内でも社外でも評価が続きます。

3つ目、「専門性の棚卸し」を役職定年の前にしているかどうか。役職定年で肩書きを失ったとき、手元に残るのは「何ができる人か」という中身だけです。この棚卸しを事前にしている人は動じませんが、していない人は自分を見失いがちです(棚卸しの具体的な方法は専門性の翻訳の記事で書きました)。

3. 役職定年をきっかけに動くべきか、留まるべきか

ここは多くの方が悩むポイントです。結論から言うと、「役職定年そのもの」を転職理由にするのはお勧めしません。役職定年は多くの会社で起きる制度的な出来事であり、それ自体は転職市場での説得力のある理由にはなりにくいからです。面接で「役職定年でモチベーションが下がったので」とだけ答えると、次の会社でも同じことが起きるのではと懸念されます。

お勧めするのは、役職定年をきっかけに「自分は何をしたい人なのか」を棚卸しし、その結果として転職・複業・現職継続のいずれかを選ぶという順番です。役職定年という出来事は、あくまで棚卸しのきっかけであって、転職の理由そのものにしないことが大切です。

4. 実際に評価が上がったケース

対比をひとつ紹介します。同じタイミングで役職定年を迎えた、モデル化した2人の話です。どちらも「メーカーで課長職・52歳」という経歴だと思ってください。

Cさんは役職を外れたことに落胆し、周囲との会話を減らし、与えられた業務だけをこなす日々を過ごしました。1年後、部署内での存在感は薄まり、次の異動でも希望が通りませんでした。

Dさんは役職定年を機に、これまで後回しにしていた若手教育に本腰を入れました。自分の失敗談を含めて率直に伝えるスタイルが評判となり、部署をまたいだ相談役として頼られるようになりました。1年後、専門職としての社内評価が上がり、待遇面でも一定の見直しがありました。もし転職を選ぶ場合でも、「育成実績」という新しい武器を持って市場に出られる状態です。

2人の差は、能力の差ではありません。役職を失った後に何を積み上げたかの差です。

5. 転職を選ぶ場合の伝え方

役職定年後に転職を選ぶ場合、面接では「役職を失ったこと」ではなく「役職を離れて見えたもの」を語ってください。「マネジメントから離れたことで、実務によりコミットできるようになった」「後進育成の経験を通じて、伝える技術が磨かれた」——こうした前向きな翻訳が、次の職場での評価につながります。面接で見られている3つの視点の記事もあわせて参考にしてください。

6. 業種による違い — 役職定年の重さは一律ではない

役職定年の影響の大きさは、業種によっても差があります。年功序列的な人事制度が色濃く残る業種(大手製造業・金融機関など)では、役職定年が給与・権限の両面で大きな変化として現れやすい傾向があります。一方、成果主義の色が強い業種(IT・コンサルティングなど)では、そもそも役職定年制度自体を持たない企業も増えています。自分の業種における制度の実態を、人事部やOB・OGへのヒアリングを通じて事前に把握しておくことをお勧めします。「隣の芝生」の話に振り回されず、自社の実態を正確に知ることが第一歩です。

7. 家族への影響も含めて考える

役職定年は、本人だけでなく家族にも心理的な影響を及ぼすことがあります。役職手当がなくなることによる収入の変化、肩書きが変わることへの周囲の反応。誤解がないように申し上げると、これは恥ずべきことでも隠すべきことでもありません。むしろ、家族と早めに率直に話しておくことで、無用な誤解や不安を防ぐことができます。「役職は変わるが、これまで積み上げてきたものは変わらない」という事実を、自分自身にも家族にも、言葉にして伝えておくことが大切です。

8. 会社に相談すべきこと・自分で決めるべきこと

役職定年前後の時期には、会社の人事制度(再配置の選択肢、専門職コースの有無、給与テーブルの詳細)について、人事部と率直に相談することをお勧めします。会社側も、役職定年者の再配置には制度上の選択肢を用意していることが多く、聞かなければ提示されない情報も少なくありません。一方で、「自分は何をしたいか」「マネジメントを続けたいか、実務に集中したいか」という問いは、会社ではなく自分自身で決めるべきことです。会社の制度と自分の意思、この2つを分けて整理することが、後悔のない選択につながります。

9. 役職定年を機に転職市場を覗いてみるという選択

役職定年が近づいたタイミングは、実は自分の市場価値を確かめる良い機会でもあります。すぐに転職するかどうかは別として、転職エージェントに相談したり、実際に何社か応募して自分の市場価値を確認したりすることで、「今の会社に残る」という選択の納得感が変わります。比較対象を持たないまま「なんとなく残る」よりも、外の世界を一度確認した上で残るほうが、その後の働き方への納得感は大きく違います。

(結論)役職を失っても、積み上げは失われない

まとめます。①役職定年は個人の評価の終わりではなく、制度上の転機である。②評価が分かれるのは、肩書きへの執着を手放し、教える側に回れるかどうか。③役職定年そのものを転職理由にせず、棚卸しのきっかけとして使う。④転職する場合は「役職を離れて見えたもの」を語る。

役職定年は、キャリアの格下げではありません。積み上げてきたものを、次の形に再配置するタイミングです。まずは自分の専門性を棚卸しし、15問の適性診断で次の進路タイプを確かめてみてください。

皆さんいかがでしたでしょうか。肩書きは変わっても、あなたが積み上げてきたものは変わりません。では今日もがんばりましょう。

監修:山根 一城(株式会社ポテンシャライト 代表)

IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。

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