継続雇用(再雇用)と転職、どちらを選ぶか — 判断基準の作り方|50+クエスト
- 厚労省の高年齢者雇用状況等報告では雇用確保措置のうち継続雇用制度を選ぶ企業がおよそ7割を占め、65歳まで同じ会社に残る選択肢が制度上のデフォルトになっている。
- 再雇用後の賃金は50代後半の6〜7割程度に下がる体感値が多く、役割・裁量の縮小が金額の変化とセットで起きる点を見落としやすい。
- 判断は収入・役割・人間関係・残り年数の4軸で整理し、比較表に書き出すと継続雇用と転職のどちらが自分の優先順位に合うかが見えやすくなる。
「継続雇用と転職、結局どっちがいいんですか」——50代の方との面談で、これはほぼ毎回出てくる質問です。
結論から言うと、僕は「継続雇用が正解」とも「必ず転職すべき」とも思っていません。どちらが合うかは、収入・役割・人間関係・残り年数という4つの軸で、ご自身の優先順位を並べ替えてみないと決まらないからです。この記事では、まず制度の実態を公的統計で確認し、そのうえで判断軸の作り方とケース比較、今日から動く場合の実務手順まで具体的にお伝えします。
0. 結論を先に:どちらが正しいかではなく、何を優先するかで決まる
継続雇用(再雇用)と転職は、比較の土俵が違います。継続雇用は「慣れた環境で収入を維持しながら緩やかに終着点へ向かう」選択で、転職は「役割と収入を再構築するが、環境はゼロから作り直す」選択です。どちらが得かという問いの立て方自体が、実は的を外していると僕は考えています。優先すべきは「あと何年、どんな役割で、誰と働きたいか」という自分の側の条件を先に言語化することです。さらに言えば、この二択は排他的でもありません。継続雇用を選びながら並行して社外の専門性を磨き、条件が整った段階で転職に切り替えるという『ハイブリッド型』を選ぶ方も僕の面談では増えています。最初から白黒つけようとせず、時間軸の中でどちらの比重を高めていくかを考える方が、実際の意思決定には近いと感じています。
1. 継続雇用制度の実態を数字で見る
厚生労働省の「高年齢者雇用状況等報告」(直近の令和6年調査)によると、65歳までの雇用確保措置を導入している企業のうち、最も多く選ばれているのが「継続雇用制度」で、全体のおよそ7割の企業がこの形を採用しています。定年を65歳以上に引き上げている企業や定年制そのものを廃止している企業はまだ少数派で、多くの会社では「60歳でいったん定年、そこから契約形態を変えて再雇用」という流れが標準になっています。企業規模が大きくなるほど継続雇用制度に頼る比率が高い傾向も見られ、大企業の従業員ほど「制度に乗る」動きが前提になりやすいというのが僕の観測です。中小企業では逆に定年延長や定年制廃止を選ぶ割合がやや高く、会社の規模によって選べる選択肢の幅そのものが違うという点も見落とせません。
つまり、多くの方にとって継続雇用は「特別な優遇」ではなく「制度上のデフォルト」です。だからこそ、何もしなければ自動的にこの道に乗る、という前提を持っておく必要があります。転職を考える方も、まずは自社の継続雇用制度の中身(賃金テーブル、役割の変化、契約更新の条件、更新の頻度)を一度きちんと確認してから比較を始めることを僕はおすすめしています。制度の中身を知らないまま「なんとなく不安だから転職」と動くと、比較対象が曖昧なまま意思決定することになり、後になって「実は継続雇用のほうが条件が悪くなかった」と気づくケースも見てきました。
2. 再雇用で待遇はどう変わるか(3つのケース)
賃金構造基本統計調査(厚労省)を参照すると、60〜64歳の賃金水準は55〜59歳と比べて下がる傾向がはっきり出ています。僕の面談での体感値でも、再雇用後の年収は50代後半の6〜7割程度に落ち着くケースが多いという印象です。これは業種や職種で幅がありますが、「同じ仕事を続けているのに給与だけ下がる」という感覚を強く持たれる方が少なくありません。
ケースA:製造業のライン管理職の方は、再雇用後も担当業務はほぼ変わらなかったにもかかわらず、月収が手取りで約4割減となりました。契約更新のたびに評価面談があり、実質的な発言権は縮小したそうです。「給料が下がるのは覚悟していたが、意思決定から外されるのが一番こたえた」と話されていたのが印象に残っています。
ケースB:一方、経理の実務担当として長年働いてきた方は、再雇用後も月次決算の実務をそのまま任され、収入の下げ幅は2割程度にとどまりました。役職を持たない実務型の専門性は、再雇用後も評価されやすい傾向があると僕は感じています。
ケースC:営業職で長年チームを率いていた方は、再雇用のタイミングで管理職から個人プレイヤーへの転換を打診され、給与は3割減となりましたが、目標数字のプレッシャーが下がったことを本人はむしろ歓迎していました。「役職を失うことがすべてマイナスではなかった」というこの方の言葉は、待遇の変化を金額だけで評価してはいけないことを教えてくれます。同じ「再雇用」という言葉でも、管理職としての裁量を手放す場合と、実務の専門性をそのまま継続する場合、そして役割転換そのものを前向きに受け止められる場合とでは、下げ幅も納得感もまったく違ってきます。
3. 転職と継続雇用、それぞれの判断サイン
転職を選んだほうがいいサイン
次の3つに複数当てはまる方は、転職の検討を進める価値が高いと僕は考えています。今の会社の継続雇用制度で役職・裁量がほぼ確実になくなることが分かっている、専門性(技術・資格・特定業務の実務経験)が社外でも通用する言葉に翻訳できる自覚がある、あと10年以上働くつもりで収入を維持したい期間がまだ長い、という3点です。特に3つ目は見落とされがちです。継続雇用の待遇低下を受け入れられるかどうかは、残りの就労年数によって重みが変わります。65歳で完全に引退するつもりなら数年の我慢で済みますが、70歳近くまで働くつもりなら、同じ下げ幅が長期にわたって積み重なります。
継続雇用を選んだほうがいいサイン
逆に、今の職場での人間関係・仕事のやり方に大きな不満がない、専門性が社内特化型で翻訳に時間がかかりそう、あるいは転職市場での通用性に自信が持てない、残りの就労期間が5年以内で環境を変えるコストとリターンが釣り合わない、という状況では継続雇用を軸に考えるほうが合理的なことが多いです。継続雇用は「慣れ」という資産をそのまま使い続けられる点が最大の強みで、人間関係の再構築や新しい職場のルールを覚え直す負荷がない分、精神的な安定を優先したい方には向いていると僕は感じています。
4. よくある失敗と対処
面談で見かける失敗の多くは「比較の材料が揃う前に決めてしまう」ことです。よくあるのが、継続雇用の条件通知を見ないまま「どうせ下がるだろう」と決めつけて転職活動を始めてしまうパターンです。実際に通知を確認すると、想定より下げ幅が小さかったり、逆に想像以上に役割が縮小していたりと、事前のイメージと大きくずれることが珍しくありません。対処法はシンプルで、継続雇用の条件通知(賃金テーブル・役割・契約更新の頻度)は必ず書面で確認し、それを見てから転職活動の是非を判断する、という順番を守ることです。
もう一つの失敗は、転職活動を始めてから「自分の専門性が社外でどう見えるか」を初めて言語化しようとすることです。これは時間がかかり、結果として継続雇用の返答期限に間に合わず、選択肢が狭まったまま継続雇用に流れてしまうケースにつながります。専門性の言語化は、継続雇用の通知が来る前、できれば1年前から少しずつ進めておくことをおすすめしています。三つ目によく見る失敗は、家族や周囲の意見だけで決めてしまい、自分自身の優先順位を後回しにしてしまうことです。収入面での安心を家族が望んでいても、本人が人間関係のストレスに強い懸念を持っているなら、その懸念を数値化しないまま押し切ると、入社後・再雇用後に後悔につながりやすいというのが僕の実感です。
5. 判断軸の作り方と実務手順
実際に判断するときは、感覚だけで決めず、軸ごとに書き出してみることをおすすめしています。以下は僕が面談でよく使う整理の型です。
| 軸 | 継続雇用 | 転職 |
|---|---|---|
| 収入の変化 | 下がるが下げ幅は緩やか(体感6〜7割水準、実務型は8割前後の例も) | 個社差が大きく、専門性次第で維持〜下落幅を抑えられる |
| 役割・裁量 | 縮小することが多い(管理職ほど大きく縮小しやすい) | 職務内容次第で維持・拡大の余地がある |
| 人間関係 | 既存の関係を維持できる | ゼロから構築し直す負荷がある |
| 準備にかかる時間 | 短い(制度に乗るだけ) | 職務経歴書の作成、面接対策など数ヶ月単位 |
| 向いている残り年数 | 5年以内が目安 | 10年以上働くつもりの場合に検討価値が高い |
実務手順(3ステップ・所要時間の目安)
ステップ1(所要1週間程度):継続雇用の条件通知を書面で確認し、賃金テーブル・役割・契約更新の頻度を表に書き出す。まだ通知が来ていない場合は人事に確認の時期を尋ねる。ステップ2(所要1〜3ヶ月):自分の専門性を社外の言葉に翻訳する作業を始める。職務経歴書のたたき台を作り、転職エージェントとの面談で市場の反応を確かめる。ステップ3(所要2週間程度):上の比較表を自分の状況に合わせて埋め、収入・役割・人間関係・残り年数のどれを最優先にするかを言葉にする。この3ステップを踏むと、多くの方は「収入は転職、安定は継続雇用」という単純な二項対立ではなく、自分がどの軸を最優先にしたいかが見えてきます。僕自身、面談で表を一緒に埋めていく中で「実は人間関係の負荷を一番避けたかった」と気づかれた方が何人もいました。表を埋める作業自体が、頭の中の漠然とした不安を分解し、優先順位に変換する時間になるのだと思います。
(結論)
継続雇用と転職に優劣はありません。制度としては継続雇用が多数派である以上、何もしなければそちらに乗るのが自然な流れですが、それが自分の優先順位と合っているかどうかは別の話です。収入・役割・人間関係・残りの就労年数の4軸で自分の条件を書き出し、どちらの選択がその条件を満たしやすいかを冷静に比較してみてください。皆さんいかがでしたでしょうか。では今日もがんばりましょう。
よくある質問
Q. 継続雇用と転職、どちらが年収は下がりにくいですか
一般的には継続雇用のほうが賃金の下げ幅が緩やかに見えますが、これは制度上の話で個社差が大きいです。再雇用でも役割が大きく縮小すれば5〜6割まで下がる例があり、逆に専門性を評価する転職先では下げ幅がそれより小さく収まることもあります。金額だけでなく役割の変化とセットで比較することを僕はおすすめしています。
Q. 継続雇用を選んだあとに転職することはできますか
可能です。継続雇用は最長でも65歳前後までの期間限定の働き方なので、その間に外部での専門性の翻訳を続け、条件が整った時点で動く方は珍しくありません。むしろ継続雇用の期間を『転職の準備期間』として使う設計は、収入を維持しながらリスクを下げられる現実的な選択肢だと考えています。
Q. 役職定年と継続雇用は同じ意味ですか
違います。役職定年は多くが50代のうちに管理職の役割を外れる制度で、雇用自体は続きます。継続雇用は定年(多くは60歳)後に契約形態を変えて働き続ける制度です。役職定年で役割が変わった時点と、継続雇用で契約が変わる時点は別のタイミングで訪れるため、それぞれで判断が必要になります。
IT人材業界20年、ギークリー創業を経て現職。個人として通算4,200名のキャリア面談を実施してきた経験に基づき監修しています。本文中の年収・難易度等は独自ガイドの目安値であり、個人の経験・企業により変動します。